私の浅薄な知識と鋭くもない頭脳では、国際関係や外交問題に関して大局的な見地から考察するのはどうしても無理だよな、と思っていたら、たまたま10月29日付朝日新聞で米ハーバード大の名誉教授だという偉いお方のインタビュー記事を目にした。ふむふむなるほど、と感じいるところが多かったので、一部抜粋(全文ではない)しておこうと思う。備忘録として。
----以下、抜粋----
ハーバード大名誉教授 エズラ・ボーゲル:1930年生まれ。社会学者として日本研究に進んだ。93年にはクリントン政権の東アジア担当国家情報官に就き、日米安保再定義を提唱した。
――クリントン米国務長官が尖閣は日米安保の対象だと発言しました。
「以前は、尖閣でなにか問題が起こったときに米政府がどうするかは必ずしも明白ではなかった。国際法上、尖閣、釣魚(ティアオユイ)島がどこに属するのか、帰属は確定していないというのが米政府の公的立場です。非常に微妙な問題です。そこで、尖閣が日本に属するとは言わないが、日本は重要な同盟国なので、助けにくるという趣旨で発言したのです。」
「ただし、それは中国に対抗して日米同盟を強化しようということではありません。中国の脅威があるから日米同盟はいっそう強固なものになる、と主張する人がいますが、私はそういう見方は取りません。日米はともに民主主義国であり、我々の同盟は中国の脅威がなくても強固です。反中感情を利用して同盟を強化するのは、健全ではありません。中国は大国であり、我々は中国とやっていかなければならないのです。中国が脅威となるような行動をとれば、日米で対処すべきですが、中国が建設的対応をするときは、我々も中国と協力すべきです。」
――民主活動家のノーベル平和賞受賞への過敏な反応を見ると、中国の民主化はむしろ逆行しているのでは。
「中国は国が安定的に発展できるか不安なのです。中国は巨大です。著しく低い生活水準にある人々が何億もいる。少数民族の問題もある。1989年の天安門事件の学生たちのように自由を求める人もいる。北京の指導者たちは、こうした問題をコントロールする自信がない。それが基本的な状況だと思います。だから外国から口を出されることに反発するのです。」
「では、中国にはどれだけの民主主義があるのでしょうか。鄧小平が明確に言っています。それは政治的状況によるのだ、と。状況が緊迫し、秩序が保てなくなると判断したら、中国政府は自らが必要と思う措置を取るということです。ここには悪循環があります。米国がチベット仏教の指導者ダライ・ラマを支持すると、チベットでは政治活動が活発になる。中国政府が弾圧する。すると人権运動家が抗議し、また米国では批判が高まる。」
――民主化しない中国は、世界と関係改善ができるでしょうか。
「中国は自らに自信を持たない限り民主化を進めることはないでしょう。しかし、民主化しなくても中国が他国と良好な関係を結ぶことは可能だと思います。…(中略)…中国は世界との貿易から利益を得ています。そのことを理解する指導者が中国にはいるはずです。」
――歴史的に、中国は自らを中華世界の中心と位置づけてきました。
「過去とは状況が違います。確かに中国はアジアにおける偉大な文明でしたが、世界的な覇権国家であったことはない。鄧小平の時代以来、中国は自らを世界システムの中の一国家と位置づけています。中国は強国であろうとし、また強国であることに誇りを見いだしています。しかし、中国は世界システムの受益者であり、世界システムをコントロールできないことも知っています。80年代に中国はマルチの国際機関に入るには自らは弱すぎるのではないかと恐れていました。国際機関から課せられる義務に応じられないと思ったのです。しかし、いまや中国は自らの国益のため国際機関を必要とし、進んで入ろうとしています。」
――鄧小平時代の関係改善はなぜ続かなかったのでしょうか。
「鄧は友情とか友好関係で動いたのではありません。それが中国の国益となると判断したからです。彼はまた、米国や日本に対しても、それぞれの国益に基づいて行動するものと期待していました。では、なぜ日中関係が悪化したのかというと、中国の国益が変わったからだと思います。経済発展を達成し、もはや日本から基礎的なテクノロジーを学ぶ必要がなくなった。天安門事件以降は愛国心教育を優先しようとする指導者側の計算もあった。鄧小平後の中国の指導者は日本との知己が少ないことも一因でしょう。」
「日本側も対中関係をうまく扱えなくなった。歴史問題では、日本はもっとオープンに戦争中の残酷な行為を認めるべきでしょう。歴史と正面から向き合おうという様々な試みがメディアで行われ、それは評価しますが、もっと広いベースで行わねばならない。過去を美化する日本の右派の活動が、日本を攻撃する材料となって中国の左派に提供されている。日中の両極端が互いを助け合い、真ん中の穏健派が敗北するという構図になっています。」
----抜粋、終わり----
興味のあるポイントを箇条書きにまとめると…。
・国際法上、尖閣、釣魚島がどこに属するのか、帰属は確定していないというのが米政府の公的立場だということ。
・日米の同盟関係は、ともに民主主義国家として強固な結びつきを持っている。反中感情を利用して同盟を強化するのは、健全なあり方ではないということ。
・中国の指導者の立場としては、巨大な自国を統治するために、民主主義よりは秩序の維持を優先させる。しかし民主化しないとしても世界と良好な関係を保つことは可能だということ。
・中国はかつて世界的な覇権国家であったことはないし、鄧小平以降は自らを世界システムの中の一国家と位置づけていること。
・経済的な発展によって中国の国益が変化し、それに伴って日中間のあり方も変化しているということ。
・日中の両極端が互いを助け合い、真ん中の穏健派が敗北するという構図になっていること。
世間には往々にして大きな声で極端なことを言う者勝ちという傾向があるけれど、人々の心の中の良識が世論を形づくっていく社会であってほしいと思う。
これから日中関係はますます難しくなっていくんじゃないかという気がする。“敬而遠之”の関係から丁々発止のやり取りが必要となる関係へと。中国に対してだけでなく、アメリカとも対等なパートナーシップを築くためにはそれなりの責任も負わなきゃいけない。そういう厳しい時代に対応できるだけの力が、日本の指導者たちにはあるのだろうか。なんだか先行きが不安だ。