2年後に始まる100メガ級携帯LTEが世界を覆う

100Mビット/秒超のデータ通信速度を実現する
次世代携帯規格「LTE」(long term evolution)が2010年にも実用化される。
モバイル環境でこれまでの常識を覆す,FTTHに匹敵する実効速度が実現可能になる。LTEは世界中の多くの携帯電話事業者を巻き込み,
事実上の統一規格として世界中を覆う勢いだ。
2年後のLTE商用化を見据えた事業者の戦略も見えてきた。(堀越  功)




 モバイル環境でFTTH並みの100Mビット/秒の速度が2年後にも実現する──。“モバイルFTTH”とも呼べる次世代の携帯電話システム「〓LTE」(long term evolution)が,早ければ2010年度中に利用できるようになる。

 LTEとは,現行のW-CDMAやHSDPAの後継規格のこと。第3世代携帯電話(3G)の標準化団体である〓3GPPが規格策定を進める。HSDPAが3.5世代(3.5G)と呼ばれるのに対して,LTEは〓第4世代携帯電話(4G)に近い規格であることから,3.9世代(3.9G)と呼ばれる。

 LTEの〓理論上の最大伝送速度は下り326.4Mビット/秒。LTEによってユーザーは,無線でも有線のFTTH並みの高速通信を使えるようになる(次ページの図1)。これまで固定回線を引いている家庭やオフィス内でしか実現できなかった大容量データの送受信や映像などのリッチなコンテンツの受信が,携帯電話の無線インフラで利用可能になる。実際,NTTドコモは2008年4月に公開した実験で,屋外で移動しながら240Mビット/秒超の速度が出る様子を公開した(pp.32-33の別掲記事参照)。

 LTEはこれまでの携帯電話システムと比べて,パケット通信の遅延時間を大幅に減らせる点も特徴だ。例えば対戦型オンライン・ゲームや画面転送型のシン・クライアント・システムなど,リアルタイム性を生かしたアプリケーションを今よりも使いやすくできる。

 日本では2009年にモバイルWiMAXや次世代PHSなどのモバイル・ブロードバンド・サービスが始まる予定。しかし多くの加入者を持つ携帯電話事業者が,その1年後にモバイルWiMAXや次世代PHSの伝送速度を超えるサービスを始めることになる。モバイル・ブロードバンドのサービスを見極めるうえでも,LTEの動きに注目しておく必要がある。

LTEで端末ポータビリティも実現へ

 2007年末になってLTEは事実上,次世代携帯電話の統一規格となった。W-CDMAを採用するNTTドコモや,米AT&Tモビリティ,英ボーダフォンなど日米欧の大手携帯電話事業者のほか,米ベライゾン・ワイヤレスのように,これまでCDMA2000を採用する事業者もLTEの採用を表明したからだ。日本でCDMA2000方式を導入しているKDDIも,正式決定はしていないがLTEの採用に踏み切ったもようだ(図2)。

 CDMA2000系の3.9G規格としては「〓UMB」(ultra mobile broadband)があるが,「まだUMB採用を正式に表明する事業者は現れていない」(クアルコムジャパンの石田和人標準化部長)のが現状。LTEが世界を覆う勢いである。

 LTEが世界中で利用される国際規格となることで,スケールメリットによってLTE機器の価格は既存のW-CDMA機器よりもさらに安価になるだろう。

 仕様が世界共通になると,これまでよりも日本のメーカーが開発した携帯電話を海外で販売しやすくなる。ある日本の携帯端末メーカー幹部は,「LTE商用化のタイミングで,もう一度世界に打って出たい」と話す。LTEは国際競争力の低下にあえぐ国内の携帯端末メーカーにとっても好機になる。

 また日本国内においては,これまでW-CDMAとCDMA2000という技術に分かれていたため難しかった〓端末ポータビリティの実現へ向けて,道が開けることになる。

2年後を見据え事業者が動き出す

 LTEの標準化作業は,現在までに約8割が完了している。2008年12月までにすべての作業が完了する予定だ(図3)。

 それに伴って,携帯電話事業者の動きも活発になっている。NTTドコモは2007年7月から実証実験を開始。2009年内の開発完了を目指しており,2010年度に商用化するロードマップを公開している。

 LTEの商用イメージも見えてきた。NTTドコモの尾上誠蔵無線アクセス開発部長は「端末はデータ・カードとハンドセット・タイプから始まる。既存の3Gサービスを利用できるように,基本は3GとLTEのデュアル端末を用意する」と語る。LTEがこれまでの携帯電話の延長に位置するサービスであることを強調する。

 ただしLTEのエリア展開は,W-CDMAからHSDPAへの進化のように急速には広がらない見込みだ。LTEはHSDPAとは異なる技術を採用していることから,基本的には基地局設備に追加の機器が必要になる。NTTドコモの尾上部長は「ユーザーの増加を見つつ,投資効果を考えながら徐々にLTEエリアを広げていきたい」と語る。

LTE用の周波数確保で争奪戦も

 LTEが利用する周波数帯にも課題がある。LTEは,1.4M~20MHz幅を利用できるが,100Mビット/秒の高速通信を実現するためには,片方向で10M~20MHz幅の帯域が必要になる。しかもLTEは同じ周波数帯でW-CDMAやHSDPAと共用できず,LTE専用の帯域を別途用意しなければならない。ソフトバンクモバイルの宮川潤一取締役専務執行役CTOは「3Gサービスの帯域がひっ迫する中で,10MHzもの帯域幅をLTE用に割く余裕はない」と語る。

 そんな中,事業者が注目しているのは,総務省が2008年4月から開始した3.9Gの商用化に向けた議論だ。2008年12月までに技術条件を固めるスケジュールであり,それ以降追加の周波数が割り当てられる可能性がある。ここでの議論次第で事業者の戦略は大きく左右されることになる。







本文中〓の付いた用語を解説

LTE=3GPPが現行3Gシステムの長期的な発展を目的に標準化を進める3.9世代の移動通信システム。2004年5月にNTTドコモが3GPPに提案した内容から議論が始まった。LTEとは当初は暫定的な名称であり,「Evolved UTRAN」というプロジェクト名で呼ばれていたが,LTEという名称が広まったためそのまま名前が残っている。

3GPP=third generation partnership project。第3世代移動通信システム「IMT-2000」の仕様作成に携わるプロジェクト・グループ。W-CDMAやHSDPAといった標準規格を策定している。

第4世代携帯電話=下り1Gビット/秒以上を目指す現行3Gの次の世代の規格。要素技術の多くは3.9Gと共通になる見込み。ITU-Rでは「IMT-Advanced」と呼ばれている。

理論上の最大速度=制御信号も含めた値。制御信号が使う帯域はまだ規格化が完了していない。

UMB=3GPP2が標準化した3.9Gに当たる通信規格。最大伝送速度は,下り最大288Mビット/秒,上り最大75Mビット/秒。採用する要素技術は,OFDMAや64QAMなどLTEと多くの部分で似通っている。

端末ポータビリティ=同じ端末を使いながら,様々な事業者のネットワークやサービスを利用できること。


図1 モバイルでFTTH並みの速度を実現するLTE W- CDMA技術の進化系として3GPPで標準化が進む。2010年以降の実用化が見込まれている。下り100Mビット/秒以上(20MHz帯域利用時)の速度を実現するほか,これまでのネットワークと比べて低遅延な点も特徴だ。

図2 日米欧の主要通信事業者がこぞってLTE採用の意向を表明 3GでW-CDMAを採用する事業者のほか,これまでCDMA2000方式を採用してきた米ベライゾン・ワイヤレスやKDDIもLTEの採用を表明した。LTEが世界を覆う国際標準となることで,システム,端末の低価格化や,端末ポータビリティ実現への道が開ける。

図3 LTE商用化に向けたスケジュール 2008年末に3GPPの標準化が完全に完了。NTTドコモは2009年末までに商用システムを開発完了するスケジュールを公開している。商用化は2010年以降になりそうだ。並行して総務省でも3.9G導入に向けた議論が始まっている。

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