痩金体
采桑子 重陽 1929年10月
人生易老天難老
歳歳重陽
今又重陽
戦地黄花分外香
一年一度秋風勁
不似春光
勝似春光
寥廓江天万里霜
[日本語版]
さいそうし ちょうよう
采桑子 重陽 1929年10月
ひと いのち お やす てん お がた
人の 生は 老い易く 天 老い難し
としどし きくのせっく
歳歳に 重陽のめぐりきて
いま また きくのせっく
今 又も 重陽
せんち きく ことのほか かお
戦地の黄花の 分外 香るかな
ひととせひとたび しゅうふう つよ
一年一度 秋風 勁し
はる けしき に
春の 光に 似ざれども
はる けしき よ まさ
春の 光 似り 勝れるよ
りょうかく ばんり しも
寥廓たる江天 万里の霜
天は人間のような生命をもたず老いることを知らないが、人間の生命は老いやすいものだ。毎年の重陽の節句が、今年もまたまわってきて、私にも、過ぎ去った時間の早さを思わせる。今年の重陽は根拠地を出撃して、敵をまちかにひかえた戦地でむかえたが、菊の花は例年よりずっと強い香を放っている。
年に一度の秋風が勁く吹いて、春の景色とはまるでちがう風景だが、私には春の景色より眼前の景色のほうがずっとすばらしい。看よ、流れる大河の上の澄みきった大空ははてしなくひろがり、地上はくっきりと万里の向うまで霜の降りた厳しい秋の姿を見せているのではないか。