「上原正吉伝 頭から煙が出るほど考え続けろ! 大正製薬の基礎を築いた男の発想と行動」 真鍋 繁樹
- レビュー
- 本書は、大正製薬の事実上の創業者、上原正吉氏が、たった6名の小さな個人商店的な会社であった「大正製薬所」に入社した大正5年から昭和30年代まで、上原氏が時代やその当時の環境や状況、自分の置かれた立場の中で、大正製薬の経営をどのように考え、そしてどのような意思決定、行動をとり、今日の大正製薬の基礎を築いてきたかを克明に記しています。
日本一の高額納税者、政治家、辣腕経営者、大正製薬のドンとして高名な上原氏ですが、本書は氏の一代記としても大変興味深く読みやすい書籍であるとともに、経営やビジネスのエッセンス(本質)が随所に記載された学びの多い書籍です。
経営哲学、志、考え方、マーケティング、人材育成など学びや示唆に富む内容が満載の本書ですが、私なりに本書のエッセンスについて紹介します。
1)はじめに志ありき
18歳にして「この名をして、財界の一勢力たらしめん」とする志の大きさ。当時、何も持たなない青年「上原正吉氏」であっても大きな志はこのときから持っていました。
2)深い思考
常識を常識として受け入れないで、固定観念にとらわれることなく、常に「なぜだ」「どうしてだ?」と自分に問い続け、どんな場面にも「自分が納得するまで、深く考える」姿勢が発揮されています。
3)「紳商」としての経営哲学
「わが社は“紳商”である。学問や技術の未熟で、万一、不良品が出ても、不正品は絶対作らない。これがわが社の誇りである」との哲学に則り、太平洋戦争終了後の物質不足の中、行政指導により「10%」前後の誤差でも「良品」とする製薬メーカーへの救済措置が施行されても、それに甘んじなかった経営。
4)前向きな態度
大阪支社への転勤、そして本社の経営不振に伴う本社への復帰、さらに創業者死去に伴う創業者一族との確執など、必ずしも順風満帆ではない逆境、苦境の中での前向きな態度。もちろん、これには小枝夫人の内助の功が大きかったことも読み取れます。
5)現場感覚と仮説検証
「考えてもわからないときは動くに限る」との信念のもと、答えを現場に求め、仮説→実行→検証→仕組み化→改善のサイクルを継続的にまわし続ける経営。
6)学びの継続
自らが薬品知識の不足を感じたら学校に通うという、自身の営業力を強化するためには絶えず知識習得を心がける学びに対する貪欲さ。
7)価値観共有と人材育成
大阪支社長時代に「大阪で成功するために必要なことは、自分の考えを100%理解してくれる営業マンを育てることだ。そのためには、寝食を共にして育成する必要がある。そしてみだりに乱売合戦に加わって、社の信用を貶めてはならない」との考えのもとに、毎日勉強会を実施。この勉強会は、後にかの有名な「上原学校」と呼ばれるようになります。
8)経営視点での会計と合理化
「私の経理帳簿に対する基本観念は、“事業家は、帳簿に引きずり回されるものではなく、帳簿を駆使するものである”ということである」との考え方のもと電算化を推進。
9)先取的なマーケティング
1.流通政策
「個人的な経営体制から脱し、会社という組織的な力で、組織的な販売網を確立し、“大正製薬”という製品を世に売り出したい」という渇するような思いが突き上げてきた結果、流通政策として、当時としては斬新な「特約株主度」(後の「共成会」の前身)による販売網を構築。これは、ご本人の考えに加え、当時、松下電器の売り出した「砲弾型ランプ」の施策にヒントを得たものであり、異業種からも貪欲に学ぶ姿勢が読み取れます。
2.広告
「夜7時から10時までがゴールデンアワー、という考え方は捨てよう。これはNHKだけにしか通用しない考えだ。民間放送のゴールデンアワーは、NHKのゴールデンアワーが終わった夜10時からのことだ。NHKの10時までは、長い間聴きなれた娯楽番組が並んでいる。しかし、10時を過ぎるとニュースや時事解説などの固い番組に変わる。この時間を狙って、民間放送が娯楽性の強い楽しい番組を流せば、人々はこちらへダイヤルを回してくれるようになる。だから、10時からが民間のゴールデンアワーなんだ」と考え、当時では斬新な広告手段であったマスメディアをいち早く取り入れています。
これら2つは、「よく考えた上での先取性」が発揮されています。
これら以外にも学ぶところが本当に多かった書籍です。
最後に興味深かった内容に、小枝夫人が後年語ったとされる、夫を成功させる秘訣について紹介しておきます。現在では、当時の時代背景も違い、必ずしも納得できない方もいらっしゃるかも知れませんが、個人的には賛同します。皆さんはどうですか?
(1)夫に決して家庭の心配をさせない
(2)夫の給料、地位に不満をいわない
(3)夫の仕事を手伝う
(4)虚栄心の強い妻にならない - ⇒ 「上原正吉伝 頭から煙が出るほど考え続けろ! 大正製薬の基礎を築いた男の発想と行動」をamazonで購入する