増える外国人医師?看護師 評判上々、言葉の壁なお

 医療の国際化と人手不足を背景に、外国人医師や看護師らの受け入れが進んできた。経済連携協定(EPA)による東南アジアからの看護師受け入れは累計で700人を超えたほか、医師についてもこのほど規制が緩和された。独自に日本の医師や看護師の資格を取得する外国人も増えている。医療現場を担う外国人の実情と課題を探った。

 

 

■看護師

 

 「ご気分はどうですか。何か困ったことはありませんか」。袖ケ浦さつき台病院(千葉県袖ケ浦市)の外科病棟で、流ちょうな日本語で患者に声をかけるのはベトナム人看護師のファム?ティ?ミンフーさん(34)だ。6月下旬から入院している佐久間義子さん(86)は「検査で不安なときも優しく付き添ってくれる。日本人よりも優しいくらい」と厚い信頼を寄せる。

 ミンフーさんはベトナム北部ハイフォン市の出身。ハノイ市で2年間の日本語研修を受けた後、2000年に来日。秋田市の看護学校で学び看護師資格を取得した。秋田市内の病院勤務を経て08年春から袖ケ浦さつき台病院で働く。

 文化や習慣の違いもある。思ったことをはっきり口にするベトナム人と違い、日本人は体調が悪くても話さないことがある。ミンフーさんはベトナムの風習や歴史を話して患者と親しくなるよう努める。「信頼関係を作ることが患者のケアにはとても重要だ」と話す。

 袖ケ浦さつき台病院の竹内美佐子看護部長は「言葉などの不安から、日本人に世話をしてもらいたいという患者は多いが、実際にケアを受けると大抵の人が丁寧な仕事ぶりに満足してくれる」。

 同病院では系列の社会福祉法人を含め、ベトナム人やフィリピン人など計13人の外国人が看護師や介護士として働く。外国人受け入れ支援の民間団体AHPネットワークス(東京?港)やEPAを通じて受け入れている。8月にはベトナムからEPAで初めて看護師や介護士の候補3人を受け入れる予定だ。

 給与体系は日本人と同じ。「受け入れ前の看護学校の授業料や日本語習得にかかる負担などを考えるとコストはかさむ」(同病院を運営する社会医療法人社団さつき会の矢田洋三理事長)が、「少子高齢化による将来的な医療従事者不足を考えると、外国人の受け入れを進めなければならなかった」(同)という。

 東京都八王子市の永生病院は、中国?黒竜江省出身の看護師を12年から主任に起用し、病棟管理も任せている。日本語をマスターし日本の看護師資格を取っただけでなく、日本に帰化し結婚?子育てするなど積極的に根付こうと努力するなかで、「順応性があり能力も高い」(斉藤あけみ看護部長)と評価は高い。

 

■医師

 

 北海道中央労災病院(北海道岩見沢市)の中国人医師、孫志剛さん(36)は、国の臨床修練制度を活用して3月に来日した。一定の臨床経験のある外国人医師が、日本人の指導医のもとで処方箋交付以外の医療行為ができる仕組みだ。

 

中国から来日した孫志剛医師(右)は臨床にも携わる
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中国から来日した孫志剛医師(右)は臨床にも携わる

 内科医の孫さんは中国?遼寧省の医科大学で日本語を学んだ。北京の外国人向け診療所で日本人駐在員を診察し、「日本の医療現場を体験したい」と思い至った。

 同病院で呼吸器内科や中国でも患者が増えているじん肺の治療を学びつつ、朝の回診など臨床にも携わる。慢性的な医師不足に悩む病院は「即戦力になっている」(指導医の大塚義紀副院長)。「専門分化した中国と違い、日本の医師は総合的な診療能力が高いので驚いた」と話す孫さんは日本での医師資格の取得を目指して勉強を始めた。

 同病院と孫さんとを仲立ちしたのは、医師人材紹介大手のリンクスタッフ(東京?港)。約7年前から臨床修練制度を使った外国人の紹介を始め、累計80人ほどの実績がある。大半は中国人。日本の病院からは「産科や小児科、外科で需要があり、まずは患者との会話が少ないチーム医療で受け入れてもらっている」(杉多保昭社長)。

 患者との関係では言葉の壁が高い。山口市の小郡第一総合病院は97年以降、顕微鏡を使った手術である「マイクロサージャリー」を学びたい外国人医師を臨床修練制度で累計30人ほど受け入れたが、インド人など多くは英語のみ。診察はせず、手術の補助などにとどまっている。

 

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■受け入れ増 現在は特例 本格開放は今後議論に

 経済連携協定(EPA)に基づく看護師受け入れは2008年度から始まり、これまでにインドネシアとフィリピンから累計700人余りを受け入れた。14年度からベトナムが加わり、6月にはベトナムから候補生の第1陣21人が来日した。日本語研修などを経て、8月上旬から医療現場での実務が始まる。

 医師についても、6月に成立した法改正で、歯科医を含め1988年度以降計1500人余りを受け入れてきた臨床修練制度の規制を緩めた。これまで最長2年だった滞在期間を4年まで延ばせるようにしたほか、受け入れ先を病院だけでなく診療所にも拡大した。

 こうした受け入れ拡大について国は、経済連携の強化や国際交流を目的とした特例としている。労働力不足を補うとの目的に対しては、日本医師会などが慎重姿勢を崩していないためだ。しかし、若い研修医が集まらない地方やへき地の医療機関では、外国人医師への切実なニーズもある。特例ではなく、より広く外国人を受け入れるべきとの意見もあり、今後議論になりそうだ。

(武田敏英、後藤宏光)

 

 
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