不況は社業拡大の好機 社外の資源を取り込め 塚本 勲[加賀電子会長]

今、私の机の上には企業の事業概要や財務諸表などを記した資料が山積みになっています。「うちの事業を継承してくれ」「この会社と提携してくれないか」と持ち込まれたものです。昨年から特に多くなり、毎日のように資料が増えていきます。

 世界的な金融危機が影を落としているのでしょう。提携などを持ちかけてくる中小企業は、貸し渋り、貸しはがしの憂き目に遭って、資金繰りに困っているエレクトロニクス関連企業が多い。銀行は融資を決める判断材料として財務諸表を重点的に見ますが、その企業が持っている技術の潜在的な価値まで評価するのは難しい。その結果、少し赤字になっただけで融資を引き揚げられたりしているようです。

 その点、エレクトロニクス関連の商社である我々は専門家ですから、技術の目利きができる。連結ベースで約2000人いる国内の社員のうち、400人くらいはモノ作りなどを手がけるエンジニアです。彼らの知識や経験を使えば、技術をこちらの方向に伸ばしたらモノになるとか、この製品はこういう分野に売り込むべきだといった価値判断ができる。「3年後にはぐっと伸びる会社にできる」と判断すれば、積極的に支援を検討しています。

 実際に支援するのは、持ち込まれる案件の1割程度です。加賀電子の規模からすると、個々の企業規模はさほど大きくありませんが、将来有望な商圏や技術を持っていれば賭けてみる価値がある。資本を入れたり、100%子会社にしたりしてグループ化し、相乗効果を出すようにしています。

 振り返れば、加賀電子という会社自体、このように外部の事業や人材を取り込みながら大きくなってきたようなところがあります。

 1968年に私が東京・秋葉原で電子部品商社を創業しました。今は、連結売上高が3000億円くらいの中堅専門商社ですが、資本参加している会社は70社あり、そのうち57社が連結対象の子会社などです。商社だけでなく、EMS(電子機器の受託製造サービス)などモノ作りを手がけるところも多い。エレクトロニクス分野のビジネスで、間口の広いことが強みです。

 振り返れば「不況期こそチャンス」と、常に前向きにとらえてきたことが奏功しているのかもしれません。半導体や電子部品の需要は減るかもしれないけれど、今まで扱っていなかった商品の販売依頼を引き受ければ、事業分野を広げるきっかけになる。個人商店のような問屋がグローバル化と販路開拓、技術分野の拡大を続けてこられたのは、そのおかげでしょう。「弊社にご相談いただければ、何かしらお役に立てますよ」という商社の強みを磨くことにもつながります。

 新しいことに挑戦しようという姿勢は社内でも同じ。社員が有望なビジネスを考案して自分でやりたいと言えばグループ会社として独立させます。基本方針は性善説に立った「義理、人情、浪花節」です。信賞必罰ですから、3年経っても単年度黒字にならなければ撤退し、担当者を本社に戻してしばらくボーナスをカットしたりしますが、責任を取るのはそれで終わり。失敗経験でその人材は育ったのですから、またやりたいと言えば挑戦させます。

 景気が悪いからといってしょぼくれていても始まらない。次の成長に向けて、新しい事業の種をまくことを忘れてはいけません。(談)

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