夕方、川べりに散歩に出かけると、河川敷の运動場に車が数台入り込んでテーブルや椅子、ビニールシートが並べられている。土手を行きかう車や自転車もいつもの休日より少し多い。ああ、今日は花火大会なのだと思う。町中の人が繰り出すほどの夏の一大イベントだ。けれども私は何だか出かける気にならない。昼間の暑さでぐったりしているし、元来人混みは嫌いだし、それに華やかな花火はなんだか自分に似つかわしくないような気がした。どん、どん、どどん、という胸を打つ音を家の中で聞いていたら、ふと芥川龍之介の『舞踏会』を思い出した。
鹿鳴館の舞踏会で17歳の少女明子は、フランス人の海軍将校とダンスを踊る。ダンスの後、二人の目の前で冬の花火が上がる。
……
其処には丁度赤と青の花火が、蜘蛛手に闇を弾きながら、まさに消えようとするところであった。明子には何故かその花火が、ほとんど悲しい気を起こさせる程それ程美しく思われた。
「私は花火のことを考えていたのです。我々の生(ヴィ)のような花火のことを」
しばらくしてフランスの海軍将校は、優しく明子の顔を見下しながら、教えるような調子でこう言った。
……
芥川龍之介『舞踏会』
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