北京のタクシー

 
 今回、北京市内の観光地をめぐるのに、どこへ行くにもタクシーを使った。タクシーを使わないと効率よく動くことができない。料金も比較的安く設定されているので、気軽に利用することができる。
 でも一方で、それは夫や義妹と一緒だからであって、一人だとこんなに上手くタクシーを使いこなせるかどうか自信がない。

 ガソリン代が高騰しているので、初乘り(3キロ)10元(120円)以上の距離の場合はメーターの金額に燃料チャージ代として2元、プラスされる。
 ごく一部だけれども、タクシーの乘降が禁じられている場所がある。
 必ず混む場所があるので、距離的には多少遠回りになっても、ドライバーはその道を避けたい。
 地元の人間ならいろんなルールや事情をよく知っているので、通る道にしても、上手くドライバーを指示したり、或いはドライバーの求めに応じて臨機応変に対応することができるのだが、もし私が一人で乘っていたら判断のしようがないので、どうしてもドライバー任せになってしまうだろう。
 それに一般的にいって、あまり上品なドライバーはいない。夫も義妹もそういうドライバーに対する話の仕方というのをそれぞれが違うやり方で心得ている。夫の場合はわりと命令調でやるので(もっともこれは日本人から見たら命令調に聞こえるのであって、中国人からすれば普通の言い方なのかもしれない)、私はそういうものの言い方が普通なのかと思っていたら、義妹と二人でタクシーに乘った時、全然やり方が違うのでちょっと驚いた。まずは窓から、すごく丁寧な言い方と物腰でどこそこへ行ってくれるか、とドライバーに頼むように話しかける。(夫はドアを開けて乘り込むのが先だ。私にも乘り込む前に行く先を言うな、と釘を刺す。)ドライバーも丁寧な口調で話しかけられると、悪い気はしないみたいで、わりと丁寧に応じてくれる。
 そして、夫と義妹とも、ドライバーとちょっとした世間話を交わすことが多いんである。
 彼ら同士のざっくばらんな会話は早口すぎるのとなまりがあるのとで、私にはあんまりよく聞き取れない。

 タクシーは台数から言えばたくさんあるようなのだけれど、利用する客もそれ以上に多いので、時間帯によってはなかなかつかまらないことがある。夕方のラッシュ時には、タクシーをつかまえようと、車道に身を乘り出して手を挙げている人が、あちこちにいる。
 タクシーを待って道路に立っていたら、黑のセダンがすっと寄って来たので何かと思ったら白タク(中国語では“黑車”という)の誘いだった。夫でさえ、白タクには絶対に乘らないというので、じゃあ、みんな警戒するんだから、商売として成り立つのかしら?と思っていたら、ある時、声を掛けられた白タクに目の前で乘り込んだ人がいた。しかも20代の若い女性だった。

 そういえば、もう何十年も前、浦安(千葉県)で相乘りの白タクに乘ったことが一度だけある。東京のベッドタウンとして住民が急激に増えているのに、バスやタクシーなどの交通機関の整備が追いつかず、終バスが出たあとの駅の正規のタクシー乘り場は毎夜、長蛇の列になった。その列のそばを柄の悪い男が車のキーをチャラチャラさせながら、低い声で地名を呪文のように唱えていく。どこどこ方面、という感じで。その時私はとっても疲れていて、週末かなにかでいつもにも増して長いタクシー乘り場の列に並ぶことに耐え切れず、初めて白タクに乘った。私も含めて客は3人、相乘りで、料金はひとりいくらと均一。普通に一人でタクシーに乘るのと同じくらいか、ちょっと安めだったと思う。結構良心的ですよね。
 道順からしたら本来私が2番目に降りるはずなのに、なぜか一番最後にひとりだけになって、すごくどきどきした。ドライバーは、間違えた、と言ってちゃんと無事に降ろしてくれたけど。
 その後、同じ駅を利用している知り合いの男性とたまたま白タクの話になって、彼の言ったことには、
「よく利用するけれど、以前、乘った車が片腕のドライバーだったことがある。片腕で、ハンドル離してギアチェンジするんだよ。」
さすがにその時はちょっと怖かったそうだ。


 話が逸れてしまった。北京のタクシーの話がまだあるのだけれど、続きはまた明日。


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