本心は水の如く、妄心は氷の如し

 
 本心と申すは、一所に留らず、全身全体に延びひろごりたる心にて候。妄心とは何ぞ。思ひつめて、一所に固まり候心にて、本心が一所に固り集りて、妄心と申すものに成り申し候。本心の失せ候はば、所々の用が欠ける程に、失わぬ様にするが専一なり。たとえば、本心は水の如く一所に留まらず、妄心は氷の如くにて、手も頭も洗はれ申さず候。氷を解かして水となし、何処へも流れるやうにして、手足をも何をも洗ふべし。心一所に固り一事に留り候へば、氷固りて自由に使はれ申さず、氷にて手足の洗はれぬ如くにて候。心を溶かして総身へ水の延びるやうに用い、其所に遣りたきままに遣りて使ひ候。是を本心と申し候。
(沢庵著『不動智神妙録』)

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