らんちゅうの優鬱

 
 父がらんちゅうの稚魚を買ってきたと聞きつけて、近所のらんちゅう博士が様子を見にやってきた。
 博士はいろいろと語っていったのだが、父は頑固者で、人から指図されるのがあまり好きではなく、アドバイスも聞いているのかいないのか。
 らんちゅう博士によると、我が家のらんちゅうの水槽は数に対してちょっと狭すぎるそうだ。数匹ずつ分けた方がいいとのこと。おもしろいのは、かといって、水槽の中で一匹だけで飼うのもよくないと言う。一匹だけだとエサをあまり食べなくなって、痩せてしまう。数匹で競争して食べると、食欲が刺激されて、食べる量も増え、姿態がまるまるとした美しい曲線になる。
 エサの量も余るくらいの量をやってしまうと、あわてなくてもいいと思って、逆にあまり食べなくなる。足りないくらいにして競わせた方が食欲が旺盛になっていい。
 そう言えば、我が家の古株の大きならんちゅうは一匹だけの時は、動作もゆったり、鷹揚に泳いでいたのに、新しい住民が二匹入った途端、きびきびと動くようになった。以前はエサをやっても、ああ、そうですか、ご飯ですか、まあ食べましょうかね、とのん気に構えていたのに、三匹になって以降は、エサの袋を開けた気配だけで、ざわつくようになった。
 一匹だけを大事に大事にして愛をそそいでも、いいらんちゅうに育つとは限らない。豊かさも惰性に陥れば、欲がなくなって停滞する。人間も同じだろうか?

 




 
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