生きていさえすればいいのよ

 河べりを散歩していて、きらきら光る川面や青々とした山々を眺めたり、ざわざわと鳴る木々の葉ずれの音や雲雀のさえずりを聞いたりしていると、この世が無性に愛しくなる。夕刻の太陽が空に描く朱から濃紺のグラデーションに二度と同じものはない。幾度夕焼けに出会っても、それはたった一度の風景で、今この瞬間にすら刻々と姿を変えていく。そんな自然の光景を一人たたずみ眺めながら、太宰治の『ヴィヨンの妻』に出てくる文句を思い浮かべる。「私たちは、生きていさえすればいいのよ」。

『ヴィヨンの妻』太宰治
 http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/2253_14908.html

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