美しい夢を見た。
九十九折の階段を少し登ると、上から中型の白い犬が二匹降りてくるのが目に入った。柔らかな白い巻き毛が全身を覆い、肢体はスマートで気品がある。大きな耳が頭部の後ろに垂れ下がり、波打った巻き毛はまるでモーツァルトの銀髪のよう。二匹の白い犬は赤いリードに繋がれて、二人の女性を従えている。二人の女性はそっくりでたぶん双子だろう。双子はおそろいの白いドレスを着ている。柔らかなドレープがかかっている長いドレスで、細い足首と黑いパンプスが見える。首には黑のベルベットのチョーカー、長いストレートの髪にカチューシャをはめている。二人は音もたてず優雅に歩く。歩くたびに白いドレスの裾がゆっくりと揺れる。そして傍らには白のタキシードを着て白いシルクハットを被った父親らしき紳士が連れ立っている。
一行は私の目の前で、階段の途中にある一軒の家に入っていった。尖った赤い屋根の小さなかわいらしい家は低いフェンスに囲まれて、庭にはアーチに絡まったバラの花が咲いている。もうすぐ双子はこのアーチの下で結婚式をするのだと、私は思った。
階段の片側は崖になっていて、もう片側には階段が九十九に折れるその一区画ごとに、双子が入っていった家と同じような小さな洋風の家が建っている。小さな家はそれぞれ小さな庭を持っていて、どれもよく手入れされて気持ちがいい。
途中で急に視界が開け、眼下に広い湖が見えた。
真下の岸辺には小さな桟橋があって、ビート板のような小さな小さなボートが繋がれている。ボートに子供が乘り込む。一人乘り、二人、三人・・・、ボートは重みに耐えかねて沈んでいく。ボートも子供たちもすっかり沈んでしまい、私は息をつめて湖面を見守った。一人、二人と子供たちが浮かんできた。もう一人は?と思う間に、水面は急に透き通り、水の中の様子が現れてきた。仰向けに沈んでいる子供の姿が微かに波打つ水の中にはっきりと見える。ロープが二重三重に子供の首に巻きついている。ああ、あの子はロープを自力ではずせるだろうか、と不安に駆られながらも、きっとはずせるに違いないと私は予感する。その予感通りに間もなく子供は自分でロープをはずし、浮かび上がってきた。
いつの間にか私の立っている場所は湖の岸辺にぐんと近づき、私は地面から子供の肩程の高さにあるコンクリートの防壁の上に立っている。私は濡れ鼠になっている子供を防壁の上から抱えるようにして引き上げ、びしょびしょに濡れた頭をタオルでごしごしと拭いてあげるのだった。