重苦しく冷たい夢を見た。
私は夕刻の商店街を歩いていた。それは駅前からまっすぐ続く、街一番の賑やかな通りで、私は何か雑貨を買うために目当ての店に向かっている。店は地下にあるはずで、一階の別の店の間口を通り抜けて降りていかなければならない。ところが、通りに面した店に足を踏み入れると、店先に入ってすぐ正面に壁が現れた。天井近くから腰の辺りまでガラスの入っていない大きな窓が開いている。窓から見える店の中は内装工事の真っ最中だ。
「下の店に行けますか?」
と、作業員に声をかけたが、
「行けないよ。」
という返事だ。作業員が誰かに
「工事中だっていうのに店を覗く連中が多いと思ったら、皆、下の店に行きたいんだな。やっとわかったよ。」
と話す声を背中で聞きながら、私は店を後にした。
店を出ると、辺りはすっかり夕闇に包まれていた。賑やかな通りだというのに、街灯がほとんどない。店の明かりも通りを照らさず、大勢の人が行き交っているというのに、すぐ傍を通り過ぎていく人々の顔もはっきり見えないほどの暗闇だ。歩き出すと、一歩一歩足を踏み出すのがとても困難であることに気づく。足が重い。体が斜めに傾いて、まっすぐに保つのに努力を必要とする。何かの力が私の体を地面の底へと斜めに引きずり込もうとしている。この辺りだけ重力の具合がおかしくなってるのだと、私は思う。足元の歩道にはところどころ冷たい水がたまっている。向こうから、自転車に乘った出前の蕎麦屋が何か大声を張り上げながらやって来て、私とすれ違った。すぐ傍を通り過ぎる蕎麦屋の顔が正面から目に入ったが、それは真っ暗で、目も鼻も口もないのっぺらぼうのようだった。
初夏のはずなのに、道行く人々は皆初冬のように厚い上着をしっかりと着込んでいる。私一人だけが、カットソーの上に薄手のカーディガンという寒々しい格好をしている。寒さは感じないので不便はないが、なんだか場違いなような気がして落ち着かない。50メートルほど先の左手に市役所が見える。そこまで行けばバス停があるから家へ帰れる、重い足を地面から引き剥がすようにして進むが、ふと視線を上げると、さっきまで目標にしていた市役所の建物が消えている。市役所だけでない、通りは私の知っている通りではなくなり、街はいつの間にか見知らぬ町へと変わっていた。