欲しがりません、勝つまでは


 今朝、父が、近所のホームセンターに行くと言って出かけた。広告が入っていて、安い靴があるから、と。
 30分ほどして戻ってきた父が興奮気味に言った。
「びっくりしたぞ。混んで。平日の昼間に、駐車場にすごい車だ。
みんな、トイレットペーパーを買ってる。電池はもう全然ない。
靴はサイズが合うのがなかったから、俺は何も買わなかった。」
「へえ。手ぶらで帰って来たの?よく釣られてトイレットペーパー、買わなかったね。」
「いや、もうとてもあのレジに並ぶ気にはなれない。
…しかし、みんな、金は持ってるんだな。」

 昨日、ある人のブログを覗いたら、「パンがないならケーキを食べればいいじゃない」と「お茶がないなら酒を飲めばいいじゃない」というタイトルが続いていた。
 確かに、家の近所のスーパーでも、水は棚に一本もないのに、ウーロン茶やら緑茶やらジュースやらはいつもと同じようにたくさんある。カステラの袋とパウンドケーキがワゴンに山ほど積まれていた。
 不思議なことに、コンビニではパンの棚が空っぽだったのに、そこから歩いて3分のスーパーでは、いつもどおりたくさんのパンが並べられていた。流通経路が違うのだろうか。逆に、スーパーでは不足していたカップ麺が、コンビニの棚いっぱいに並んでいた。
 
 実を言うと、少し前、これは非常事態だ、と感じ始めたとき、これからは皆少しずついろんな事を我慢しなくちゃならなくなるんだろうな、と思った。お互いに譲り合って、国民全体でこの困難を乘り越えていく覚悟をしましょう、という空気が満ちていくのではないかと思った。「欲しがりません、勝つまでは」というスローガンが脳裏に浮かんだ。
 でも、どうやら時代錯誤だったようだ。戦時中と違って、物資がないわけじゃないんだ。日本は豊かなんだ。そしてバラバラなんだ。

 決して、「欲しがりません、勝つまでは」を推奨しているわけではないので、どうか誤解なきよう。


 
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